パワーハラスメント防止の根幹
6月1日から大企業向けにパワーハラスメント防止法(正式名称は改正労働施策総合推進法)が施行されてからパワーハラスメントの防止に関する質問を複数の方から受けている。政府は「方針等の明確化と周知・啓発」、「相談に適切に対応できる体制整備」、「事後の迅速かつ適切な対応」の3つの基本対策を提示しているが、基本対策で本当に防止できるのかという懸念が質問の背景にあると認識している。この認識に基づき、パワーハラスメント防止の根幹について、下記の内容を説明している。
パワーハラスメントが発生する場合、自覚しつつ発生している場合ばかりではなく、無自覚で発生する場合、具体的には管理職が部下指導に熱中しすぎるために発生してしまうことがある。そのために3つの基本対策では限界がある。熱中しすぎによるパワーハラスメントを防止するには行動科学の知見を活用すべきである。
行動科学では管理職による部下指導のための行動を「指示」と「動機づけ」に分けて捉える。「指示」とは業務内容の改善や課題解決を促すことを目的である。具体例には担当業務の選定、目標設定、期限明示、進め方提示、報告要請などがある。一方の「動機づけ」は部下の意欲の向上や維持を促すことを目的にしている。具体例には激励、質問、傾聴、承認、叱責などがある。
「動機づけ」における叱責が厳しくなりすぎる場合に、熱中しすぎによるパワーハラスメントが発生する。一般的に「指示」が適切に行われない管理職は「動機づけ」に頼る傾向に陥りやすい。その結果としての厳しくなりすぎる叱責は、不適切な「指示」と結びつくことが多い。
熱中しすぎによるパワーハラスメントは、管理職全員が適切な「指示」を行えるようにすることよって防止できる。パワーハラスメント防止の根幹は、管理職の業務改善能力や課題解決能力を向上させ、適切な「指示」が行えるようにすることにある。多くの管理職が適切な「指示」を行うことで、パワーハラスメントを防止してもらいたい。