課題解決手法の真価
5月中旬から多くの企業で新しい事業年度の業務が本格的に始動する。今年度の注目事項の1つにデジタルトランスフォーメーション(以下、DXと略記)がある。データと業務のデジタル化を通じて新しい事業価値を生み出すことが期待されるDXは最も旬な課題解決手法であるが、真価は効果で判断される。課題解決手法は目的、対象範囲、手順によって効果が決まる。DXの真価を目的、対象範囲、手順から考えてみたい。
多くの課題解決手法は、その名称から目的を確認できる。20世紀の三大手法と言われているIE(インダストリアル・エンジニアリング)、QC(クオリティー・コントロール)、VE(バリュー・エンジニアリング)は名称から目的を類推できる。IEは生産工学と訳させることから生産性の向上を目的と捉えることができる。QCは品質の向上、VEは価値の向上が目的である。VEにおける価値とは機能を費用で割ることで把握できるとしており、機能を高めること、費用を削減することが目的である。DXの目的は名称から類推することはできないが生産性、品質、価値の向上のいずれも目的として掲げて取り組むことができる。
20世紀の三大手法の共通点は、いずれも製造業を中心に普及してきたために、主要な対象範囲は生産分野になる。一方、DXは生産分野以外にサービス業や官公庁などの公共分野を含めて幅広く対象範囲に適用される。
手順においてもDXは三大手法と異なる特徴を持っている。IEの手順ではストップウォッチを使った時間測定が重要になる。QCでは管理図などの七つ道具を使うこと、QCサークルと呼ばれる小集団活動の場を活用することが手順の基本になる。VEの手順では機能を動詞で表現することが重要である。一方、DXはデジタル技術を使うこと以外は、必須とされている事項が無く自由度が高い。今後、手順が確立されていく段階にある。
このように目的、対象範囲、手順のいずれにおいてもDXは自由度が高く、取り組み当事者の力量が問われている。DXは、様々な取り組み事例を通じて真価を発揮することが期待される。